心の病から立ち直った兄と家族の22年間。今だから話せる抵抗感から尊敬に変わるまでの出来事。

IMG_9317兄が心の病になったのは、今から20年以上前。

その頃、私はすでに一人暮らしをしていて、
家族の中で、こんな事が起きているとは知らず、

一度、留守電にあった着信も、
用事があったらまたかかってくるだろうと、折り返すことはしなかった。

だから、ここから書く入院までの内容は直接見たわけでなく、
後になって家族から聞いた話。

始まり

最近笑わなくなったと、母が長兄に呟いた日から、1週間後、
同じ職場で働く長兄も次兄の言動に異変を感じはじめることになる。

その頃すでに幻聴や幻覚があって、
現実ではない事も、まるで本当にあったかのように
記憶され、それを理由に、人を嫌悪するようになっていた。

その嫌悪する一人に、私も入っていたらしく、

「にいちゃん、まさえ、俺の担任と付き合っていたの知ってる?」
次兄からの告白に驚く長兄。

長兄から、その話を聞いた私は、

「はっ?誰よ?」とキョトンとした。

長兄も、それはあり得ないなと思ったと笑っていたけど、
ビックリするほど、突拍子もない話。

それでも、次兄は本気で信じていたし、
さらに、それ以外にも様々な空想が真実として記憶されていた。

人に迷惑をかけたくない

それから数日後、
「オレ、何かおかしいかもしれない、
病院に連れて行って欲しい」と次兄から切り出してきた。

家族で病院に向かう途中、1度は怖くなって逃げ出し、

意を決して、2度目の来院で、即入院。
「嫌だ!母さん!母さん!」と泣きながら、病室に入れられる姿。
その時のことを家族は忘れることはないと思う。

入院し、少し落ち着いた頃、
長兄が見舞いに行くと、
「にいちゃん、こんな事になって本当にごめん、迷惑かけてごめん」と
何度も謝ってきたと聞いた。

昔から人に迷惑をかける事が何より嫌いだった次兄。

「迷惑なんかじゃないから、とにかくゆっくり休め」
そう言いながら、長兄もまた、何が起こっているのかよくわからなかったと思う。
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22年間の出来事

あの日から22年、

その間、実家に帰る度、色々な次兄の姿に遭遇した。

髪も伸び放題で、昔の姿が見る影もない程太っている姿。

パチンコ依存になって毎日パチンコ通いする姿。

周りの人に怒りを露わにしている姿。

落ち着かなくて、家の中をグルグル動き回っている姿。

潔癖なくらい、家を掃除し、何でもかんでも捨てている姿。

私や長兄にイライラし馬鹿にする姿。

とにかく、何を言われても、病気なのだと思うと言い返せない。
ギズつけられる事も度々あって、実家に帰るのは正直憂鬱だった。
反対に、我慢できずわざと傷つけた事もある。

それでも、

この様々な変化の中には、
次兄自体が、今の状態から這い上がろうとする行動も
同様に見てきた。

たった半年で、丸々太っていた姿から、引き締まった身体になっていた事。

母の介護を嫌な顔ひとつせず、最後までやりとげた事。

パチンコに行かないと自分で決めて、10年がかりできっぱりやめた事。
(後になって、俺は完全なパチンコ依存性だったと言っていた)

タバコをやめた事。

毎日せずにはいられなかった掃除を、今日はやめておこうと言えるようになった事。

そして、極め付け、
家族に内緒で履歴書を書いて面接に行った事。

16年ぶりの仕事探し。あれ程恐れていた面接も、
「履歴書など見ずに、すぐに採用してくれた」と笑っていた。

そんな、一つ一つを、行ったり来たりしながら、
表情はどんどん和らいで、イライラする事も怒る事も少なくなっていった。

ずっとしたかった事

そんな、ある日、
私の娘に「買い物一緒に行こう」と次兄が誘ってきた。

車に乗って、着いた場所は、玩具屋さん。

「あやちゃん、好きな物持っておいで」

次兄の言葉に、娘は驚いた顔で私の方を見た。

「欲しいもの買ってくれるって」

娘が店内を探してゲームソフトを指差すと、レジに向かい、
プレゼント包装して手渡した。

「俺、本当はずっとそうしてあげたかったんだ」

照れながら言った一言に胸が一杯になった。

娘や甥っ子姪っ子に、プレゼントやお小遣いを渡す。
どこかに連れて行く。お年玉をあげる。
嬉しそうに笑う子供達。それができなかった次兄。

私達が何気なくしていた行動を、
どんな思いで見ていたのか、
この一言が全てを物語っているように思えた。

最近になって、
次兄とあの頃の事をよく話す。

「あの、スッキリした身体になっていた時は本当驚いた。
中々一人でできる事じゃないよ。尊敬したわ」

「俺だって、好きであんな姿でいたわけじゃない。
あの頃は、何すれば、どうすればいいのか、本当にわからなかったし、
気力もなかった。」

あの状態から、どうやって気力を振り絞り、
毎日、朝昼晩と歩き続けられたのかは分からないけど、
自分で決め、実行し続けた次兄。

22年間の中で、兄の表情が変わったと感じた最初の出来事だったし、
それまでの避けたい気持ちから尊敬にかわった瞬間でもあった。
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今になって思う

イライラし、いつも不満そうな顔をしていたあの頃。
私達に言った、ギズつけるような言葉は、
おそらく、自分自身に言っていた言葉。

一番自分を責め、馬鹿にしていたのは自分自身。

心の病になった人にしかわからないことがある。
心の病になった人と一緒にいなければ気づけなかった事もある。

傷つけあいながら、
お互いが何かを学んできた。

長かった次兄との問題は、
もう問題なんかじゃないと思える。

そう言えるようになったのは、
大塚彩子さん[自分にOKを出して前に進む]、そして、
彩さんの師匠でもある岡部明美さん[岡部明美アナテース]に出会えたことが大きい。

二人からの学びは、これが私にとって必要な経験だったと言うことを教えてくれた。

次兄の話には、父との関係が大きく関わっている。
その話は、また話したくなった時に書こうと思う。