【娘の旅立ち】私の引っ越し編


娘の旅立ちとともに、
私も引っ越しをしようと考えていた。

このアパートは、もともと娘の学校を基点に考えて決めた場所。

当時猫を飼っていたので、
猫と暮らせて、娘が学校に通いやすくて、
通学路が安全なところ。
そして、私の収入でやっていけるところ。

そんな条件をクリアする物件が
中々なくて、最後の最後に、
この部屋にたどり着いた。

ここは単身者用で、
親子やペットは想定外だったけど、

不動産屋さんが、
大家さんに合わせてくれて、

私たち親子を見て、
「単身者用だけど、ここでよかったら親子と猫もいいわよ」
と言ってくれた。

あれから、あっと言う間に8年が過ぎ、
今年の2月には4度目の更新月となって、

娘が3月末で引っ越すこと、
私も引っ越す予定だと伝え、
わがまま言って、3月末までいさせてほしいと
更新月を1カ月延ばしてもらった。

「あの時、大家さんがいなかったら
私たちは路頭に迷っていた。
本当に感謝の気持ちでいっぱいです」

そう伝えた時、
ここで起きてきたことが、
走馬灯のように思い出され、
涙がでそうになった。

隣に住むやさしい大家さん、
雨が降り出し洗濯物が濡れそうになれば、
「雨ですよ~」と外から教えてくれたり、

娘が学校に行ってないことも
気付いていただろうに、
そのことには何も触れず、

庭にみかんが実れば、差し入れしてくれた。

予定変更は突然に

少しでも予算カットをしようと
引っ越し先を探し、

東京から離れた、郊外も見て回ったけれど、
予算どころか、
職場は遠くなるし、街もピンと来ない。
物件も狭くなるのに、費用はそんなに今と変わらない。
契約費用や交通費を考えたら、
むしろ、マイナスじゃんと。

関東が雨で大荒れの日、
不動産屋さんと同行しながら
「私は本当に引っ越したいのか」と自答自問。

予算カットの為、
自分が我慢する。
それは、違うなと、

だったら、今の家で、もう少しがんばろう。

強い雨風に吹かれ、ボサボサの頭になりながら、
すぐに、大家さんに電話して、
「大家さん、私、もうしばらくいる。更新させてください!」
そう言うと。

「あら、そう、はいよ~」と快諾。

その10分後には、不動産屋さんから、
更新費用の電話が来て、その日の内に、
更新業務を終えた。

このアパートの良さを今改めて知る

娘が引っ越し、もうすぐ1カ月が過ぎようとしている。

で、今改めてこのアパートの良さを知ることになった。

6帖、3帖の二間、バストイレも別で、
一人暮らしには十分な広さ。

そして、以前は
娘が嫌がるので、窓を開けることが
ほとんどなかった。

今は朝から、すべての窓を開け、
外の風を感じながら、過ごしている。

このアパートってこんなに快適だったんだ。

そんなことにも気付けずに、
早く引っ越したいと思いながら、毎日を過ごしていた。

私の部屋は1階だけど、窓を開ければ、そこは大家さんの庭。
東京のど真ん中で、こんなにも、緑があるアパートも珍しい。

全開の窓から見える大きな木、
風に揺られ葉がこすれ合う音と、鳥の鳴き声。
この音は私の実家でいつも聞いていた音。

夜は、木々の間から見える月を見上げながら、
最近はちょっとだけお酒を飲む。

片付いた部屋を見渡し、
「なんだか、すごく快適なんだけど」と、しみじみ。

モーリス・メーテルリンクの青い鳥の話でもはないけれど、
私が求めていたものは、身近にあった。

外側に目を向けるあまり、自分で、
自分の為に快適な空間を作ることを
怠っていたことに気付き、
物を減らし、好きなものを飾り、綺麗に磨いた部屋は、
いままでとは違う空間に変わったことに
今改めて驚いている。

娘といる時は、
娘にとって快適な空間ばかり考えていたからね。
自分の空間を作るという発想に至らなかった。

そして、思う。
もし、次に引っ越すことがあるのなら、
今よりも快適な場所、
我慢でなく、ワクワクする部屋に引っ越ししようと。

娘も一人暮らしの空間を楽しんでいるようだし、

もうしばらくは、この部屋に感謝しながら
ここでの生活を楽しもうと思う。