ラーメン屋さんを経営している私のママ友の話。
親戚の方が怪我をして入院した際、
病院生活が長かったせいか、足腰が弱り、自分でトイレに行くのもままならない状態。
親戚から退院後の介護を頼まれた彼女は、
「ご飯を作るのは苦じゃないからいいよ」と引き受けたけど、
ここから、その男性にとって過酷な介護生活が始まった。
例えばご飯
ご飯を作って、食卓にだす。
箸を置いて、「さあ食べて」と一緒に食べ始め、
その男性は、手が思うように動かず、口に運ぶ途中でこぼしてしまう。
そんな男性に「ほら、ちゃんと食べて」と、一切手を出さない。
どんなに食べにくそうにしてようが、こぼそうが、頼もうが、
「自分で食べて、養ってなんてやらないよ」
トイレは這ってでも行け
トイレは彼にとってさらに困難な作業。
行きたいと言えば、「自分で行って。這ってでもいきなよ」と、一切手を出さない。
「漏らしたらどうするんだ!!!」
「漏らせばいいじゃん。そのままにしとくから」
男性は、思うように動けない体を引きずって、
彼女にむかって憎まれ口たたきながら、何分もかけて、時には這ってトイレに行き、戻ってくる。
この女といたら俺は死んでしまうかもと危機感を感じたのかもしれない。
意地と根性で、ご飯を食べ、トイレに行き、部屋を動き回った。
そんな日が何週間か過ぎた頃、彼女の介護生活は終わった。
その男性は、今自分で何でもできる。
要介護になるはずだった人が、自分の体で好きな場所に自由に行ける。
そして、彼女に会うたび、
「ありがとう。あの時、突き放されなかったら、今の俺はない」と感謝している。
私は、彼女に
「普通できないね。私だったら我慢できず手を出しちゃう」と言ったら、
「何言ってんの!オムツしてあげるなんて冗談じゃないよ!
それに、動けなくなったら、一番辛いのは本人でしょ」って。
彼女の魅力
彼女はとにかく豪快。よく食べ、よく飲み、よくしゃべる。
人情が厚く、誰よりも男気溢れる女店主。
気に入らない事があると、警察だろうが、誰だろうが、納得いくまで話す(喧嘩する)。
周りはいつもハラハラするけど、間違った事は言っていないので、
本人が気がすむまで、基本ほって置く。
そんな彼女の店は「母(はは)」と言って慕う大学生や地域の人の溜まり場になっている。
私も、時々お店に顔を出すと、
ラーメン屋さんなのに、誰一人ラーメンを食べていない。
「母、醤油ラーメンお願い」
「まじ?うちでラーメン食べちゃうの?」←(作りたくない時のセリフ)
カウンターにいるお客さんは、
「気分が乗らないらしいぞ」と言ってからかう。
みんな、ここにくる目的は、母に会うことだから、
ラーメンが出てこなくても文句を言う人はいない。
「じゃ、なんか食べたい」と言えば、適当に色々な物が出てくる。
(一応、ラーメンも普通に美味しい)
そんな普段の彼女を見ていると、
人にどう思われるかなんて一切気にしていない。
介護していた時の姿も想像できる。
余計な心配もせず、優しいふりもしない。
決して、無理せず、やりたくない事は、やらない。
気持ちいいほど思考がシンプル!
だから必要以上に疲れない。
最後に
私の母は82歳の時、病気で倒れ、1ヶ月入院した後、体が回復しても、体力は戻らず、もう、自分の足では立てなくなっていた。
1ヶ月という入院生活は、リハビリに入るには少し長すぎたかもしれない。
それから10ヶ月間、父、次兄が中心になり、私は週末だけ長野に帰り、自宅で介護をした。
介護は、体力勝負。
たった10ヶ月間でも、父も兄も私もみんな疲れていた。
どこかで気を抜かないと、する側もされる側も結局辛くなる。
もちろん、親戚の男性のように「なにくそ!」と思って、みんなが動けるようになるわけではないけれど、無理をしない彼女の自然体介護は、学ぶ点が多い。
話を聞きながら、
何か、他にやり方はあったかなと、そんなことを考えた1日でした。