【社会の中で】自閉症だったやっちゃんとの思い出。

中学の時、クラスメイトだったやっちゃん(仮)の話です。

やっちゃんは、自閉症。

人の目を見て話せなくて、
独り言を言ったり、
歌を歌ったり
難しい本をずっと読んでいたり、

でも、話しかけると
とっても人懐っこい男の子だった。

そして、彼は、
「分からない漢字があったらやっちゃんに聞け」と
言われるほど漢字が得意で、

一つ質問すると、いくつものパターンを
漢字ノートに書き出し、
その中には象形文字まであって、
やっちゃんの漢字への興味と知識は、
ほんとに天才レベルだと思った。

でも、やっちゃんは
漢字以外のことは苦手。

(確か漢字以外にももうひとつ秀でた科目が
あったように記憶しているけど、それが
何だったかは覚えていない)

興味のない授業についていくことはできず、
授業中は静かにしていた。

保健体育の先生からの提案

中学3年、やっちゃんがお休みの日、
保険体育の先生から
みんなにお願いがあると言われ、校庭に招集された。

それは、やっちゃんの事で、

自閉症は、周りの環境によってはよくなるかもしれない。
だから、みんなに協力してほしい。
やっちゃんにどんどん話かけてほしい。

そんなお願いだった。

もちろん反対する人はいない、

その次の日から、クラスは団結し、
やっちゃんへの話かけ作戦が始まった。

話かけ作戦

「やっちゃん、おはよ~」
「やっちゃん、元気?」
クラスのみんなが話しかける。

やっちゃん、最初は戸惑っていたけど、
その内、「おはよ~」って、

自分から話かけてくるようになって、
相変わらず目は合わせないけど、
手をモジモジさせながら嬉しそうに、
話したり、好きな歌をみんなの前で歌ったりした。

やっちゃんのお気に入りの曲は
中村メイ子さんの「田舎のバス」。

歌い始めると、一人、また一人と、
一緒に歌い出し、

時には、やっちゃん式替え歌、

♪田舎のバスは おんぼろ車
デコボコ道を がんばるやっちゃんだ~♪

そう歌って、みんなを笑わせた。

やっちゃんが歌うと笑いが起こり、
時に合唱が始まる。

がんばるやっちゃんだ〜♪

この歌を何度聞いただろう。

人を傷つけるような事は決してしない
やさしいやっちゃんは、
クラスの人気者になった。

ある日の出来事

ある朝、クラスルームの時間に
担任の先生から「みんなに話がある」と言われ、

その表情から、
あまりいい話しではないことが伝わってきた。

「やっちゃんは来月から特別学級に移動になる」

突然の話しに、みんな驚き、ざわつく教室の中で、
やっちゃんは黙ったまま、椅子に座っていた。

あとから聞いた話しでは、
高校受験を控える中、同じクラスにやっちゃんが
いることを問題視した保護者からの要望だったと。

これはあくまで噂なので、本当のことは分からない。

でも、中学3年のある日、
あと数ヶ月で一緒に卒業というときに、
突然、やっちゃんは特別学級への移動を
言い渡された。

僕知ってるよ

やっちゃんは泣きもしないし、
いつも通りに過ごしていた。

そして、クラス移動の前日、

やっちゃんが話しかけてきて、

「まさえさん、僕ね、知ってるよ。
特別学級って勉強ができない人がいくところだよね。
僕ってバカなのかな~」
(特別学級への表現が適切ではないけれど
そのまま表現させてください)

いつものように目を合わせることなく、
笑いながら悲しそう。

「やっちゃんがバカじゃないことはみんな知ってるよ」

その顔を見たら、こんな言葉しか出てこない。

大人達の下した決断に、
当時の私達にできることもなく、この現実をそのまま受け入れるしかなかった。

1年後のやっちゃん

クラス移動から、数カ月後、
私達は中学卒業を迎え、各々が目指した高校へ、

やっちゃんは、どこかの市立高校に進学したと聞いた。

高校生活が始まり、しばらくたったある日、

私は通学途中で大きな声を出しながら、
動き回っている学生を見かけた。

やっちゃんだった。

あきらかに、表情が変わっていて、
奇行と思える行動と叫び声、

私は怖くなって、
どうしても話しかけることができなかった。

中学卒業後、
どんな学校生活を送り、やっちゃんに何があったのか、
それはわからない。

だけど、そこには、私達が記憶している
やっちゃんの姿はもうない。

漢字が大好きで、
他の科目は苦手でも
天才的な記憶力を見せたやっちゃん。

私は、しばらくやっちゃんを追いかけたあと、
悲しくなって、逃げるように家に帰った。

変わりゆく時代

もし、とことん漢字を研究できる場所があったなら、
もし、彼の才能を活かす道を見つけることができたなら、
彼は何をしていただろう。

そして、実際の彼は今どこで何をしているのだろう。

今の時代なら、少しは違う道を選べるのかな。

私の周りで起こっている変化。
それは、自分の子供や、身近でこうした現状を見てきた人達が、
学校以外の選択肢や、多種多様な働き方を生み出し、
新たな社会の仕組みとなるチャレンジを始めている。

何か一つ突出した能力を持つ
やっちゃんのような人が、才能を活かせる社会を作ろうとしている。

そして、少しずつではあるけれど、
新たな仕組みがうまれつつある。

一人一人の個性を活かせる社会。
とにかく一歩ずつ。

今日は取り留めのない、
結論も出せない話題だけど、
やっちゃんとの思い出を書きたくなった一日。